162.9

0.1mm足りない

いとおしい猫の話

通勤途中に猫がいる。

 

いつもより少し遅れてそこを通ると、猫がいる。背もたれ付きの古びた椅子が置かれている場所があり、 そこに「座って」いる。周りに民家はなく、人もいないので飼い猫というわけではないようだ。「座って」というのは、あたかもこれはヒトが座るためのもので、ここの部分が「座る」ところだと完全にわかっているかのような佇まいを感じるからだ。

 

今日も少し遅れてそこを通ったらやはりいた。しかしなんと今日は椅子に座っていない。椅子の下で身をかがめている。暑いのかどうしたのか。ふと視線を少し先に向けると、猫の1メートルほど先に鳩がいる。なるほど。猫は身を低くかがめて尻尾を左右に大きく揺らし、狙いをすませていた。私はヒトであり、カイシャに行かなくてはならなかったため、その闘いの行方を知らない。

 

なんだかこの猫を見かけると、とても幸せで心強い気持ちになる。ただ存在すること。遭遇すること。ただ日々の命を生きていること。その存在がとても愛おしい。